ベンツの売れ行きにみる経済格差

ベンツがカローラよる売れているところがあるって本当?

ベンツのセールスマンに見るサービスの神髄

応接セット

「”走れば、それでいい”というお客さまはメルセデスを買いません。

国産車の10台分の値がするメルセデスを買うということは、ある意味、そのプラスアルファの満足を買うわけです。

売るほうとしては、いかに、それに足る上質さを提供できるかだと思うのです」

と言うベンツのディーラーは、客との信頼関係を築くために、どんな感覚で仕事をしているのだろう。


鋭い感覚でお客さまの満足を測る


「お客さまと接するとき、そのお客さまが何を望んでいるのか、どんなものが好きで何が欲しいのかを、的確に見極めるように心がけてきました」

たとえとして適切ではないが、動物が狩りをする感覚に似ているようにも見受けられる。

獲物の種類、狙う方向、タイミングなど、いろいろなことを無意識のうちに判断し獲物を捕らえる。

そんな感覚で仕事をこなしているのではないか。

「お客さまとお話しする時には、その内容以上に、自分の五感を研ぎすませて、多くの情報をできるだけ得るように努力しています。

洋服や装飾品の好み、自宅の様子、部屋のインテリア、香水の種類、たばこの銘柄……。

ありとあらゆる点から、顧客の要望や好みをリサーチするのです」

肉食動物が、狙う獲物によってやり方を変えるように、顧客ごとに合わせた作戦をたちまち組み立てているようだ。

当然、そこにはマニュアルは存在しない。

「リピーターのお客様でも、前回とは、趣味や、家庭状況が変わっていることもあるものです。

何台も購入してくださっている方でも、新規の方でも、どんな場合でも一期一会の気持ちでおります」

客に対するときは、常にアンテナを張りめぐらせている。


価格重視ではないセールス

「最近、SL55とSL600どっちがおすすめかな?」

「SL55AMGにパフォーマンスパッケージが出ましたので、それが良いと思われます」

「わかった、じゃあ、それにしよう」

「色はどうなさいますか」

「何色がおすすめ?」

「これこれ取り揃えてますが、この色がきれいではないでしょうか」

「じゃあ、それで。ところで、この前、行った恵比寿の寿司屋なんだけどさ……」

これは、実際にあった、顧客の会話だそうだ。
 
この客はメルセデスSL55AMG p/pを買った(諸経費込みで2千万円ほど)。

「お付き合いさせていただいているお客さまは、あまり値段の話をしない方が多いです。

お金が余るほどあるからというわけではありません。

新車のメルセデスを買うには、それに見合うだけ金額がかかることは、誰しもが推測がつくはずです。

商談で値段の話を持ち出さないのは、私のセレクトを信頼してくださっているからだと確信しています」

信頼を裏切らないように、客の趣味・嗜好を熟慮して、最善の選択をする。

それがサービスの真骨頂である。

「お値段に関する苦情がたまにあります。そういったお客さまとは、なかなか信頼関係が築けません。

同じセーターを買う場合でも、デパートと商店街では、値段もサービスも異なります。

値段には含まれていないもので私は勝負しています」

サービスの本質が何かを常に考えているものにとって、値段だけで勝負するセールスとは相いれないのである。


無理に売らないサービス

銀座のエルメスで、200万円超のクロコダイルのケリーバッグを見せてもらうとしよう。

白い手袋をした店員が商品を棚から取り出し、客に見せる。

「ステキですね。でも、ちょっと考えます」と言って店を出たからといって、その後エルメスの店員から

「さきほどの商品、いかがでしょうか?」と、電話がかかってくることはない。

高級品は、そうして売るものではないからだ。

それが高級品を扱う者の誇りともいえる。

「たとえば、リピーターのお客さまがいて、その方が、”今度ベントレーから出た新車がいいと聞いたから、それに乗ろうと思うんだけど”と、話したとします。

そんなとき”どうぞ、どうぞ。ああ、そうですか。ベントレーですね”と、冗談めかして笑顔で、お客さまを”しまった、なんか悪いこと言った?”という不安な気持ちにさせます」

セールスなのに、セールスをしない。

傲慢かもしれないが、そんな流儀が、強固なブランドを作っていく。

「その方にとって、メルセデスよりも、他の車が似合うなら、それでいいでしょう。

しかし、私は、そのお客さまに合った車を、心を込めてコーディネイトさせていただいているつもりです。

それでも、メルセデス以外の車に乗りたいというのであれば、仕方ありません」

ところが、一度は離れた客が、しばらくすると、戻って来ることが多いという。

車の性能に戻ってくるのか、それともセールスの人間性に戻ってくるのか……。

いずれにしても、メルセデスを売る方法は、場合によっては売り込まないことでもある。